だって、恥ずかしい。



「こら勉強君、うちの娘が怖がっているぞ、まさか何かしたな?」


え、と顔を上げた。
ちがう。ちがうのお父様。お兄さんは何もしてなくて、


わたしは瞬きを繰り返し、
慌ててわたしはお兄さんの元に走って、お兄さんの右脚に抱きついた。

恥ずかしくて声を出せないわたしの精一杯の反応だった。



「こは、小春?」



お父様の拍子抜けしたこえが聞こえた。それから、お兄さんからの視線を感じて、上を見上げる。

そこには驚いた顔したお兄さんがいた。


わたしは、ただ、お兄さんに、この桜を、あげたくて。


お父様を振り返って見る、そして、間の抜けた表情のお父様に、ちがうの、と首を振った。



そして、もう一度、お兄さんを見上げて、ちょんちょんと袴を引っ張る。

お兄さんは首を傾げてしゃがんでくれた。



「こ、れ」



精一杯振り絞った声で、右手の桜をお兄さんの前に出す。

お兄さんは、小さなわたしの親指と人差し指に持たれたその桜を見て、ふわりと笑った。


「これ、僕に?」


小さく頷く。お兄さんの大きな黒目と視線が重なる。


「ありがとう。小春さん」



花が、弾けたように、お兄さんは笑い、

お兄さんの綺麗な手のひらが、桜を、わたしの小さな手ごと、包んで、ぐいっと体が引き寄せられた。

かと思えば、

わたしは立ち上がったお兄さんに抱かれていた。


急に上がった視界。

わたしは、わわっ、と声を漏らしてお兄さんの首にしがみつく。


お兄さんからは、本の香りと、なんだか爽やかな匂いがした。




「先生、小春さんもらっていいですか」


「かあさーん!小春が貞操の危機ー!」