君を、僕は。





「おかえりなさい」



春近さんの背中に手を回して、
しがみついて、
一生懸命目を見て言うと、春近さんは首を傾けとても愛おしい物を見るみたいに顔をほころばして、わたしの頬を撫でて下さった。


さりげなく手袋を外して、手の甲でわたしの目を見ながら頬をゆるゆると下から上になぞる春近さん。

空いた方の手はわたしの肩に置いて、

指が、わたしの前髪をすく。

軍帽で目元は影になっているけれどそれでも綺麗な緩やかな笑みと、
そのだいすきなゆびが、心地よくてたまらなかった。



「ただいま」


春近さんの、声が、耳に響く。


たまらずわたしは頬を緩めて笑った。
わたしは、毎年、この瞬間が好きだった。
遠く離れた春近さんと、やっと、やっと、会える、この時。


だから、うだるような暑さも、けだるい空気も、


春近さんに会えるから、愛せた。




また、春近さんは、背が高くなられたみたい。

わたしだって、少し身長、伸びたのだけれど、春近さんは頭ひとつ分、うんきっとそれ以上大きくて、

見上げると、少ししんどい。

けれど、白の軍帽を被った春近さんは、かっこいい。
から、見ていたいの。

後ろに見える、青い空や、入道雲なんかより、

わたしは春近さんを見ていたかった。



制服である軍服、

春近さんは、細身だし、とても似合ってる。




思っていると、

あらあら、とお母様の声がした。



春近さんのわたしを見てくれていた視線が、玄関の方に向いたので、わたしも春近さんからはなれて振り返った。


「お帰りなさい春近君。あの人も待ってるわ、上がって」


玄関の中から、お母様はニコニコと笑って、こちらを見ていて、

黄色いエプロンを風に揺らしていた。




そうだ、お父様も、春近さんのことをとても待っていらしたんだっけ。