幼い頃から、人見知りが激しくて、内気。
お母様の後ろにいつも隠れているのが、わたしだった。



わたしは、お庭の桜が好きだった。

風に流れていく桜の花びら。
お家の塀を悠々と超えるその桜の木の桜、は雲一つない春空に舞っていった。


ヒラヒラ、

くるくる。


ぽとり。


桜の木の下でしゃがんでいたわたしの視界に、五つ綺麗に花びらのついた、五弁の桜が落ちて来た。



木の幹に横たわるそれを、拾って左手にふわりとのせる。


わたしの小さな左の手のひらには、やっと五つの桜が集まったところだった。



淡い桜色、あと、もう少し、






サアアァと、風が、右から左に吹き抜けた。

わたしのお気に入りの水色の着物、袖がゆらりと風に揺れて、

去年よりもうんと伸びた髪が流れていった。



その風と一緒に、聞こえたのは、こえだった。


「綺麗な、桜ですね」


え?と。

しゃがんだまま振り返る。大きな黒目を桜に向ける、知らない、男のひとが縁側に立っていた。



ポロポロと、手のひらから桜が落ちていく。

わたしは立ち上がった。



「こんにちは。お邪魔しています。」



表情のあまりない、大きな黒目のお兄さん。



お兄さんは、着物袴で、着物の中にシャツを着て、袴は、わたしの着物と同じように風に靡いていた。



わたしは駆け出した。



そして向かったのは、台所にいるお母様の後ろ。

拾ったはずの桜は、一つも手には残っていなかった。