密会は婚約指輪を外したあとで


歓楽街に入り込み、行き交う人たちが増えてきた。

拓馬を見失いそうになった頃、彼はようやく一つのビルの前で立ち止まった。


雑居ビルから出てきた女の人に気づき、拓馬が声をかける。

淡い花柄のワンピースを着た長い髪の女の人は、渚さんだった。

二人はここで待ち合わせをしていたらしい。


「あの人、拓兄の高校時代の同級生で──人妻」


ハルくんは要らない情報を私に与えてくれる。


「この前、披露宴を挙げたばっかりなのに、まだ拓兄と逢ってるんだ」

瞳には微かに、蔑んだ色が宿っていた。


もしかしたら旦那さんにも了解を得て、お互い友人として会っているのかもしれない。

だけど、二人きりでデートをしていることは事実。



高いヒールを履いていた渚さんは2、3段の階段を下りたとき、バランスを崩しガクッとよろめいた。

転びそうになった彼女を、拓馬が当たり前のように支える。

彼女の華奢な肩を抱き、密着した状態で何か会話をしている様子だった。


何かを訴えるような眼差しで見上げる渚さん。

拓馬は彼女の長い髪を優しく撫でたあと、賑やかなネオン街へ消えていった。