私をぶしつけに見下ろし、僅かに首を傾ける彼。

真っ白なYシャツに青いストライプのネクタイをしていて、スーツ姿は見惚れるほど格好いいけれど……。


ここは、ドラマや漫画なら慰めてくれるところなんじゃないの?
顔も覚えていないとは失礼な。


「深瀬奈雪です。一馬さんの──」


若干強い口調で名前を名乗るけれど、途中で尻つぼみになってしまう。

あんな事実を知ったあとで、一馬さんの“彼女”だと告げることがどうしてもできなかった。


「ああ……兄貴のヨメ候補ね。その顔、兄貴に泣かされたんだ?」


涙目の私を微塵も可哀そうとは思っていない口調で、拓馬さんは片方のくちびるを歪めて笑った。