密会は婚約指輪を外したあとで


「パパの大事なお客さんだよ。一花(いちか)はハルとご飯食べてなさい」

「はぁい」

ハルくんと女の子……一花ちゃんがリビングへ消え、一馬さんは廊下で小さくため息をついた。


「ごめん、騙す形になって」

「いえ、いいんです。あんな簡単に、話に乗った私が悪いんです。私なんかがホントに結婚できるなんて思ってませんから。失礼します……っ」


リビングへ鞄を取りに戻り、慌ただしくパンプスを履いて玄関を出る。

一馬さんとはもう目を合わせられなかった。


「なゆちゃん──」

扉が閉まる直前、一馬さんの声が聞こえたけれど。

私はそれを振り切ってエレベーターのボタンを押した。



間違えて、好きになりかけたじゃない。

優しくてポジティブな一馬さんのこと。