密会は婚約指輪を外したあとで

この頃は、顔に傷を作って帰ってくることはなくなったらしい。

そしてたまに、お母さんと会っていると聞いた。

少しずつ、彼にも本当の笑顔が戻ってきているようで安心する。




「なゆさん、良かったらここ受けてみない?」


ハルくんがテーブルの上に広げて見せてくれたのは、保育園の求人情報だった。


「でも私、資格は持ってないから……」

「保育補助なら資格は要らないみたいだよ。ここでまず働いてみたら?」


そう薦められ、ふと気づく。

もし拓馬がこのまま帰って来なかったとしても。

私には私の日常が待っている。

いつまでも立ち止まっているわけにはいかない、と。




「……あ」


不意にハルくんが、飲みかけのグラスを大きく音を立てて置き、手元のスマホ画面を凝視した。


「どうしたの?」

「……いや、一馬兄さんから連絡があって。夕食、一緒に食べないかって」