密会は婚約指輪を外したあとで


「本当にごめんなさい。奈雪さんは拓馬のお兄さんの婚約者だと、ずっと思っていたから」


渚さんまでもが勢いよく頭を下げ、私に謝ってくる。


「いえ……誤解だったようなので、もう良いんです」


微かに笑顔を作ろうとしたとき──。


「……仕返しだ」


何やら低くつぶやいた龍之介さんが、突然私のことを片方の腕で抱き寄せてきた。

不意を突かれて固まる私。


「龍之介……!」


背後から渚さんの罵声が飛んだ。


「本っ当に離婚するからね!!」


鬼のような形相をした渚さんは、可憐な容姿の中に過激な性格を隠していたらしい。

拓馬も顔色を変え、渚さんのように激怒するというよりは、冷徹な目で龍之介さんを見据えていた。

怒りを抑えるためか、一つ深呼吸している。


「さっき渚を抱きしめたこと、それと過去に渚にしたこと──これで全て水に流してやる」


龍之介さんは私を抱きしめていた腕をほどき、再び渚さんの方へ歩く。


「昔のこと、まだ根に持ってたんですね」


拓馬は憮然とした面持ちで彼を見送った。