喧嘩が絶えず、家庭内別居の最悪な空気の中に子どもを置いておくくらいなら……と離婚を選んだ。
そう、楓さんは話してくれた。

今まで、一馬さんとやり直すつもりは全くなかったみたいで。家族が元通りになる可能性はないかに思われた。

それでも私が帰る間際、『一馬ともう一度話し合ってみる』と前向きに言ってくれたから。

あとは一馬さんの熱意、頑張り次第かもしれない。



一花ちゃんの看病は楓さんに任せ、私は佐々木家を後にする。

少し寄り道をしようと思い立ち、噴水公園の中を通り、辺りを見回した。


渚さんは居ないかと目を走らせるけれど、ベンチには誰の姿もない。

ただ散歩中の老夫婦や、噴水の近くで遊ぶ学生の姿があるのみだ。

とりあえずベンチで一休みし、公園の向かいにある総合病院へ視線を向ける。

まだ新しい建物は一面ガラス張りで、外から見るだけでもかなり広そうな印象。


ぼんやりと人が行き交うのを眺めていると、病院の出入口から見覚えのある男の人が颯爽と出てきた。

ベンチに座る私に気づき、ふと足を止める。