密会は婚約指輪を外したあとで


そんな……。

自分の人生をかけて、真剣に悩んだのに。

一馬さんとの結婚、ほんの少しは考えたのに……。


「前に居酒屋で婚約指輪を見せてもらったとき、すぐにわかったよ」


そういえば、妙にじっくりと目を近づけて指輪を眺めていたような気がする。

じゃあ、全部一馬さんの嘘で、最初から騙されていただけだったんだ。

全ては楓さんを連れ戻すための餌だった、ということ。


「もらってすぐ分かりそうなものだけどな。ダイヤの奥が不透明で白っぽかったし、完全なオモチャだろ」

「だってまさか、イミテーションを渡してくるとは思わなくて」


有名なショップの袋に入っていたから本物だと思い込んでいた。あの袋はフェイクだったんだ。

本物でないなら、あんなに一馬さんを振ることに罪悪感を持つことはなかったのに。
自分の騙され体質を呪いたくなる。


「けど、ある意味兄貴には感謝してるよ。偽装でも兄貴と婚約してくれたおかげで、俺は奈雪に出会えたんだから」


そんなプラスな考え方もあるのだと、拓馬を羨ましく思ったとき。

彼は何か決意を固めたように夜空を見上げた。


「次の週末、空けといて」

「……うん。わかった」


私は静かに頷き、色とりどりのネオンを放つ観覧車を振り返った。

一花ちゃんに最高の幸せが訪れますようにと願いながら。