「楓には二度と家族には戻らないと言われていて。結婚を前提に付き合ってる彼女連れてきたら、焦って俺のところに戻ってくるんじゃないかって期待して。ほんと……浅はかだよな、俺」
自分を嘲笑うように、一馬さんは溜め息混じりに語った。
「一花が階段から落ちて怪我をした頃。一度だけ、学生時代の後輩と浮気をしてしまったんだ。
結婚していたから不倫だね、完全な。それでさらに喧嘩が絶えなくなって、離婚に向かっていった」
一馬さんの方から不倫の話を隠さず話してくれると想像していなかったので、正直意外に思う。
眼鏡の奥の瞳はいつになく寂しげだった。
「覚悟がなかったんだな。彼女や家族を幸せにしていく覚悟。奥さんを信じて許してやるだけの懐の広さもなかった」
自分が悪かったと、そう気づけて素直に自分をさらけ出せたのは大きな前進。
世の中には人のせいにしてばかりで、それすらできない人が沢山いる。
「社会人になってからは楓としか付き合ったことがなくて。なゆちゃんに出会って新鮮な気分を味わえた。
それと同時に、楓の良さが改めて実感できたんだ。本当に、ありがとう」
一馬さんは私の目をじっと見つめたあと、頭を下げた。



