密会は婚約指輪を外したあとで



夕食の準備を始めようとしたとき。

インターホンが鳴り、拓馬の抱っこから降りた一花ちゃんが真っ先に玄関へ駆けつける。


モニターに映っていたのは楓さんだった。

拓馬が玄関の扉を開けた瞬間、一花ちゃんは転びそうな勢いで駆け寄り、「ママー」と涙目で抱きついた。

楓さんが「一花にお土産」と言ってオモチャが入っているらしい袋をプレゼントしている。

「ありがとう」と嬉しそうに受け取った一花ちゃんがプレゼントを開けている間、楓さんが私を振り返った。


「一馬はまだ帰ってない?」

「はい。出張で、今日は帰りが遅いんです」

「そう……」

「ママ、まだ帰らないで」


帰りそうな気配を察したのか、一花ちゃんは楓さんの腕にしがみつき、離れようとしない。


「じゃあ、もし良ければ、一馬が帰るまで一花を私の家で預かっても?」

苦笑いをした楓さんは私へ確認する。


「……どうぞ。一花ちゃんもその方が嬉しいと思いますし」

「一馬には私の方から連絡しておくから」


お願いします、と私は頭を下げ、一花ちゃんのリュックをリビングまで取りに行く。


「ママ、今日いちかと一緒にご飯食べれる?」

「うん。ママの家で一緒に食べよう」

「やったあ」


初対面ではクールで近寄りがたく見えた楓さんは、笑うと思いがけなく無邪気でドキリとする。

きっと一馬さんは、こういうところにやられたに違いない。