密会は婚約指輪を外したあとで

ゆっくりと振り返った私が見たのは、一馬さんではなく、彼の声色と喋り方を真似た拓馬だった。


「なんだ、拓馬か……」


時計を見れば、一馬さんの帰宅まではまだだいぶ時間があった。

とりあえずホッとして、証拠隠滅のため一馬さんの部屋から出る。


「兄貴かと思った? 声はわりと似てるって言われるんだよな」


スーツ姿の拓馬は意地悪そうに私を見下ろして笑っている。

確かに外見はそこまで似ていないのに、よく通る声は似ているかもしれない。


「拓馬おじたん、お帰りー」

「ただいま」


ぎゅっと足に抱きついて、抱っこをねだる一花ちゃん。

軽々と抱き上げる拓馬の、一花ちゃんを見つめる目は凄く優しい。

もし彼に子どもがいたら、こんな感じなのかなと勝手に想像してしまう。

意外と娘には甘かったりして。