「なんで、ハルを家にあげた?」


その夜、再び私のアパートに上がり込んだ彼。

さりげなく後ろ手に玄関の鍵を閉め、密室空間を作り出したので、妙にソワソワとしてしまう。


「ハルと二人きりになるなよ。……色々と危なすぎる」


呆れ果てたようなその声音に、私は申し訳ないという気持ちを込めて頭を下げる。


「ごめんなさい……。ハルくん、雨に濡れて風邪を引きそうだと思って、家にあげてしまったの」

「それで?」

「お腹が空いていたみたいだったから、オムライスを作って……」

「はあ? 手料理、わざわざ作って食わせたのかよ」


舌打ち寸前の表情を作った拓馬は、心底呆れたように短いため息をついた。


「朝から何も食べてないって言うから……」


言い訳はもう聞きたくないと、彼は私を腕の中に閉じ込める。

身長差があるので、私の頬はちょうど彼の胸元辺りに押し当てられた。


「ハルにどこか、触られた?」


余裕のない目をした拓馬は、私の頬へ手を滑らせた。

その、今まさにあなたが触っている頬にキスをされた──とはとても言えず。ただ首を左右に振る。


いつも余裕ある素振りの拓馬。

大抵のことでは動じない印象の彼から、こうやって嫉妬されるのは、ちょっと嬉しい……かもしれない。


「奈雪さ……隙が多すぎだから。何度も言うけど、他の男に触らせるなよ? もちろん、兄貴にも」

「……はい。気をつけます」


素直に謝ったら、まだ納得のいかない表情をしながらも、彼は私に短いキスをくれた。

何度されても慣れなくて。不安定な気持ちを誤魔化すために、私はキッチンへ移動した。