密会は婚約指輪を外したあとで

大きく息を吸ったあと、ハルくんはぽつりと言った。


「母さんに電話してみようかな。会って、くれるかな」

「きっと、正直な気持ちを話せば会ってくれるよ。新しい旦那さんも許してくれるはず」

「……あ」


ふと何かを思い出したのか、私を抱きしめる腕をほどいたハルくんが、小さく声を漏らした。


「やっぱり今は無理。こんな顔じゃ会いに行けないか。自業自得、だな」


指で頬の傷を押さえ、自嘲気味に笑う。


「そういえば……。どうしてそんな傷があるのか聞いてもいい?」


控えめな質問に、彼は黙ってうつむいた。


「クラスの子にいじめられてるわけじゃない、よね?」


気分を害したのか、ハルくんは綺麗に整えられた薄茶色の眉をひそめる。

そして顔を覗き込む私から目をそらしたまま、言いづらそうに口を開いた。


「や……、どっちかというと、いじめる方なんだけど……」

「──え?」


信じがたい気持ちで私は聞き返した。