私はシートから身を起こし、乱れた髪を直す。
ちらりと拓馬の顔へ視線をやると、目が合うもののすぐにそらされる。
私と同じように、彼も気恥ずかしいと思ってくれていたらいいのに。
「一馬さんの離婚原因て、何? 聞いたらいけないことなの?」
離婚の原因はずいぶん前から気になっていたことだけど、はぐらかされていたから聞くに聞けなかった。
デリケートな話題だから、一馬さん本人には聞く勇気がない。
「兄貴から聞いたことなかったのか?」
「うん……何も聞かされてなくて」
「本当は俺から話すべきじゃないんだろうけど」と前置きをして、拓馬は車の外の景色に視線を向けながら話し始めた。
一花と母親は買い物をして自宅へ帰る途中、些細なことで喧嘩をした。
母親が一花の手を振り払ったとき、一花は階段から足を踏み外して落ちた。
一時意識不明になり救急車で運ばれたが、幸い後遺症はなかった。
故意ではなかったと判断され、刑事事件にはならなかったという。
「でも兄貴は、虐待……わざと落としたんじゃないかって今でも疑ってる。だから娘を引き取ったんだ。母親から守るために」