密会は婚約指輪を外したあとで

拓馬は私が差し出したグラスを受け取り一口飲むと、「……奈雪」と私の名前を切なく呼んだ。

グラスを置いた彼の指が、不意に私の婚約指輪に触れ、薬指からゆっくりと抜き取っていく。

それをテーブルへ乱暴に置かれても、咎める気持ちは微塵も湧き起こらなかった。


「そ……そういえば、拓馬の話って何?」


この妙に重苦しい雰囲気を回避するべく話題をそらしたつもりが、彼は意に介さず私の手首を引き寄せた。


「ああ、あれは口実。ただ奈雪に会うのが目的だったから」


潤んだ瞳に見つめられた上、期待させるような台詞のせいで、頬がさらに紅潮していく。

ただ私に会いたかっただけだと聞こえてしまったのは、自意識過剰なのか。

恥ずかしさにうつむく私の片頬を、大きな手のひらが包み込み、強引に顔を上向かせる。

そして静かに、くちびるが重なった。