密会は婚約指輪を外したあとで


私と拓馬の間には大人一人分のスペースが空いていたはずなのに、いつのまにか子ども半分以下の間隔に縮まっていた。

たとえば、酔ったフリをして肩にもたれることができる距離だ。


「あんたさ、兄貴のどこが好きで結婚するつもりなの?」


私の左手を解放した彼は、興味なさげに訊いてきた。


「──えっ。私、まだ結婚するとは決めてないよ」

「……は? その指輪受け取ってる時点で、OKの返事出してるのと一緒だろ」

「あっ……そっか」


2週間という契約として受け取ったつもりだったから、指輪は後で返そうと思っていた。

でも、はたから見たら婚約指輪は『私は結婚する予定があります』という印そのもの。

私の間抜け加減に呆れたのか、拓馬は壁の方へ顔をそむけ、深い溜め息をつく。


注文した料理が次々とテーブルに並ぶのに、柚子サワーを味見しただけで終わる私。

緊張で食の進まない私の口へ、拓馬は勝手に焼き鳥やつくねを放り込んできた。

さながら餌付けされてるヒナのよう。

単に食べさせるのが好きなだけ?

それとも、龍之介さんに私を紹介したときのように、本当にペット扱いしている?