◇
私たちは人目を忍んで、滅多に利用することのない駅で降り、個室のある小さな居酒屋を選んだ。
平日のせいか店内はさほど混んではいない。すぐに席へ案内された。
個室の中はシンプルな造りで、広々としたセピア色の半円型ソファと丸テーブルがあるのみ。
一人分のスペースを空け、先に座った拓馬の右隣に腰を下ろす。
「それ、兄貴にもらったんだろ」
ドリンクとフードを注文したあと、拓馬は私の左手に視線を向けながら訊いてきた。
やっぱり、地下街でのやり取りを見られていたらしい。
無意識に右手で指輪を隠すけれど、すでに遅く。拓馬の長い指が私の左手をつかまえた。
彼の爪は細長く、羨ましいくらい形が整っている。
「兄貴のヤツ、とうとう勝負に出てきたんだな」
適度に温かい手のひらが、私の手首を軽くなぞった。
そんなふうに触れられたら、速すぎるこの脈に気づかれてしまう。
すると拓馬は、婚約指輪を様々な角度からじっくりと眺め始めた。
「──なるほどね。娘のためなら手段は選ばないってことか」
何がなるほどなのか、よくわからないけれど、瞳の奥に静かな怒りを含んでいるのは確かだった。
私たちは人目を忍んで、滅多に利用することのない駅で降り、個室のある小さな居酒屋を選んだ。
平日のせいか店内はさほど混んではいない。すぐに席へ案内された。
個室の中はシンプルな造りで、広々としたセピア色の半円型ソファと丸テーブルがあるのみ。
一人分のスペースを空け、先に座った拓馬の右隣に腰を下ろす。
「それ、兄貴にもらったんだろ」
ドリンクとフードを注文したあと、拓馬は私の左手に視線を向けながら訊いてきた。
やっぱり、地下街でのやり取りを見られていたらしい。
無意識に右手で指輪を隠すけれど、すでに遅く。拓馬の長い指が私の左手をつかまえた。
彼の爪は細長く、羨ましいくらい形が整っている。
「兄貴のヤツ、とうとう勝負に出てきたんだな」
適度に温かい手のひらが、私の手首を軽くなぞった。
そんなふうに触れられたら、速すぎるこの脈に気づかれてしまう。
すると拓馬は、婚約指輪を様々な角度からじっくりと眺め始めた。
「──なるほどね。娘のためなら手段は選ばないってことか」
何がなるほどなのか、よくわからないけれど、瞳の奥に静かな怒りを含んでいるのは確かだった。



