密会は婚約指輪を外したあとで

突然顔をしかめ立ち止まった拓馬は「向こうの道から行くぞ」と私の服を引っ張った。

何やら顔色悪く青ざめている。


「真っ直ぐ行った方が駅まで近いのに、どうしたの?」


まさか一馬さんがいたとか?

慌てた私は拓馬の視線の先──道の向こうを確かめる。

けれどそこには人の姿は一切なく、3匹の白い猫たちが戯れているだけ。


「もしかして拓馬。猫が苦手、なんてことないよね?」


試しに聞いてみると、返ってきたのは重い沈黙。


「……うそ、可愛いのに」


私はいつもの仕返しとばかりに拓馬の背中を押した。


「おい、押すなって」

「大丈夫、猫が飛びかかってきても私が守ってあげる」

「守るって……。奈雪お前、弱味を握ったからって調子に乗るなよ」


キレ気味の拓馬に笑いをこらえながら、問答無用で猫たちの間を通り抜ける。

いつもは“あんた”なのに、“お前”と偉そうに呼ばれて喜ぶ私は変かもしれない。