密会は婚約指輪を外したあとで



「あんた、兄貴と一緒に住むのか?」


隣を歩く拓馬が、私の方を見ずに淡々と訊く。

一馬さんに頼まれたとおり、拓馬が私を送ってくれることになり、アパートへ向かっているところだった。


「いや、まだ決まったわけではなくて」

「兄貴の方は、結婚する気満々て感じだよな」

「そう……なのかな。私は正直、一馬さんの本当の気持ちがわからない。一花ちゃんのために結婚を考えているだけで、私じゃなくてもいいんじゃないかって、そんな気がする」

「だろうな。俺から見ても、兄貴はあんたを利用しているだけに見えるから」


拓馬は投げやりに言い、唐突に話題を変えた。

「そういえば奈雪さー……、ハルにも誉められてたな」

どこか不機嫌そうに拓馬が私を見下ろす。

私はさっきマンションの玄関を出るとき、見送ってくれたハルくんに、「なゆさん、いつもと雰囲気違う。キレイ」と言われたことを思い出した。


「翔さんのおかげだよ。自分じゃこんなに変われないし。明日からは普通に戻ると思う」


翔さんのメイクで今の自分を保っていられるだけであって、メイクを落とせばまた、地味な私に戻ってしまう。