密会は婚約指輪を外したあとで

一花ちゃんを抱っこしたまま寝室に入ろうとしていた一馬さんは、ふと立ち止まり私の方を振り返った。


「そうだ、そろそろ3人で暮らさない?」

「……え?」


今度は囁き声ではなく、拓馬にも聞かせているかのような普通のトーンだった。

今さっき、“娘のためを思って焦っていた”と謝ってきたばかりのはずなのに。矛盾している。


「この家じゃ狭いし、拓馬たちもいるだろ。それに──なゆちゃん、仕事が見つからないうちは家賃を払うのも大変だよね」

「それは……そうですけど」


確かに、貯金を崩して家賃を払っていくのは、この先が心配だ。

もし、いつまでも仕事が見つからなかったらと思うと──。


「じゃあ、考えておいて。いい返事、期待してる」

「……あ」


拓馬が見ている手前、断っておこうと口を開いた瞬間、寝室のドアはすでに閉ざされていた。