密会は婚約指輪を外したあとで

私は一馬さんの腕から抜け出し、部屋のドアを開けリビングへ逃げる。

静まり返ったそこには拓馬の姿はすでになく、自室へ戻ってしまったようだ。


「待って。まだ話は終わってないよ」


思いのほか強い力で手首を引かれ、私は一馬さんのそばへ引き戻された。


「なゆちゃんの好きな人って。拓馬なの?」

「──え」


私は表情を凍りつかせる。

まさか、一馬さんにも気づかれていた?


「もしそうなら、やめた方がいいよ」

「どうして、ですか?」


一馬さんも知っているの?

拓馬が不倫をしているということを。 


一馬さんは小さく息をもらし、私の手首を掴む力を緩めた。


「あいつは結婚願望なんかないんだよ。自分の親も離婚しているし、俺も同じ道を辿ってしまったからね」


自嘲気味に笑い、軽く目を伏せる。


「あと少しだけでいい……、俺に次の彼女が見つかるまで、婚約者のふりを続けてほしいんだ。一花をがっかりさせたくない」


私は何も返事ができずにうつむいた。