密会は婚約指輪を外したあとで

「一馬さん、お話はありがたいのですが、ごめんなさい。私……実は、他に好きな人ができてしまって」


心苦しく思いながら頭を下げると、彼はわずかに目を見開いたあと、ふわりと優しく微笑んだ。


「そうなんだ……、残念だな。その好きな人って、誰?」


尋ねる彼の瞳は少しも笑っていなかった。それがよけいに怖い。


「その人もなゆちゃんのことが好きなの?」

「いえ……、それはまだ、わからなくて。私の片思いのような感じで」

「だったら、まだこの関係を維持していた方が保険になっていいんじゃない? その恋がうまくいかなかったとき、寂しいでしょ?」

「でも……」


一馬さんは私の体を抱きしめたまま続けた。


「一花に『やっぱりママにはなってもらえないみたいだ』って告げるのは辛いな。あの子は、本当になゆちゃんのことを気に入っていたから」


彼の瞳が切なげに揺れる。

吊り上がった瞳の拓馬とは違い、優しい目元の彼。

だけど兄弟というだけあって、どことなく拓馬の面影もあるから、拓馬を傷つけているような気分に襲われる。


「……ずるいですね、一馬さん」