密会は婚約指輪を外したあとで

「なゆちゃんは?」

「私は最近まで印刷会社に勤めていて、契約が切れたので今は就職活動中です」

「そうなんだ。……大変だね」


自己紹介が一段落し、私たちはビュッフェコーナーへ飲み物を取りに行った。

一馬さんは私に飲み物を注いでくれたり、前菜をお皿に取ってくれたり、さりげなく気配りができるスマートな人だ。


「そういえば叶多さん、遅いですね」

待ち合わせの時刻はとっくに過ぎているというのに、姿を見せる気配がない。


「……そうだね」

ゆっくりと頷いた一馬さんは、眼鏡の奥の瞳にどこかミステリアスな雰囲気を漂わせて、コーヒーを口に運んだ。


スマホを確認してみると『仕事で遅れるから、悪いけど先に始めてて』と連絡が入っていた。

どうやら休日出勤が長引いているみたい。


それを伝えると、一馬さんはミステリアスな雰囲気を消し、元のようににこやかに微笑んだ。