密会は婚約指輪を外したあとで



一馬さんからの電話があったあと。
すぐにカフェバーを出ることになり、佐々木家のマンションへと繋がる道を、拓馬と肩を並べて歩いていた。

頭上には白い月がかかり、足元を微かに照らしている。


マンションが見えてきて、私は苦しいため息をついた。これで、拓馬との時間は終わってしまうのだから。

重い空気を感じ取ったのか、拓馬が足を止めて私の手首を掴んだ。


本当はまだ帰りたくない。
佐々木家には顔を出さず、二人きりでいたい。

でも、本音を口にしたら笑われそうだし、恥ずかしいからやめておく。

気持ちを伝える勇気は、今の私にはなかった。


「なあ、奈雪」

「……何?」

「兄貴の婚約者をやめて、俺と付き合う? それとも……、兄貴には内緒で付き合う?」


そこには、いつもの高圧的な響きはなく、優しい口調と視線だけがあった。