海と山に囲まれたこの小さな街には、今日も穏やかな時間が流れている。


秋が終わりを告げようとしているのを感じながら、あたしはいつものように海岸に来ていた。


「また、冬がやって来るね」


すっかり冷たくなった風を受けて呟けば、十一月を“雪待月”って呼ぶ事を思い出した。


冬が始まろうとする雪待月に生まれた、“彼”。


そこから一文字、そして物事の始まりを意味する“緒”から一文字取ったのが彼の名前の由来だった事を、“雪”って漢字を覚えた時に本人から聞いた。


「懐かしいね、雪ちゃん……」