藁半紙の原稿

「これなんか良いんじゃないか?
顔立ちによく映えるよ」


「嫌いじゃないが少し派手じゃあないか?」


「そうかなぁ?
栞さん。どう思う?」






そんな事を言いながら、清太郎さんと霎介さんが後ろに立っている私に布地を見せる。

ここは小さな呉服店だった。


天井まで作り付けられた棚にびっしりと色とりどりの布地が入っていて、店の中はほのかにお香の香りがする。


背後では閉めた硝子戸の向こうから通りのざわめきが聞こえていた。




「やっぱり、いただけないわ。
こんなに高価なもの…」



今朝方、唐突に清太郎さんがやって来て何やら霎介さんと話をしに行ったかと思えば、二人して私のところへ来て出かける事になった。

道中話を聞いて見れば、先日のお詫びに着物を一式仕立てると言うのだった。


いただけないと断ったのだが、清太郎さんはそれでは済まぬの一点張りで、ここまで来てしまった。

粗相の詫びに着物を買わせる女中が一体どこにいよう。

安い着物だけど、などと言っていたが安い着物であっても値ははるのだ。

詫びにしてはとても高いと思える。






「このくらいしないとこの男は懲りないのだから構いやしないよ」

「またされても良いのであれば話は別ですがね」


清太郎さんの軽口に霎介さんが笑いながら清太郎さんの右肘の内側を殴ると、清太郎さんが心底痛そうに呻いた。



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