藁半紙の原稿

ふいにおりた沈黙の中で、霎介さんはゆっくりとした足取りで私の後ろにまわって来ると、私の髪をすくように優しく撫でた。





「あれが、あの日君が泣いていた理由かい?」



躊躇いがちに頷いた私の様子を見て、何を思ったのか、ゆっくりと後ろから私の肩を抱きしめた。







「っ!?」






首筋に、霎介さんの柔らかい髪の感触と、微かな熱を帯びた吐息。



身体の芯が爆発したように熱くなる。






「殴り飛ばしてやってもよかったんだが…」

「んっ……!」






首元で話される度に、身体が反応する。





「僕の思い違いでなければ、あの日以降から君が変わった気がしてね」

「ちょ…っ……そ…介…さ……っ」



私の反応を楽しむように、彼の指先が懐を這う。








「そう思ったらなんだか釈然としないが、そんなに熱くなれなかった」




いつもの霎介さんらしくない…

いや、
きっとこれも霎介さんなんだ。










「次にもしまたそんなことがあったら、手近な物で思いっきり殴ってやると良い」

「んぁっ……はぁ…い…っ」




出した事もないような甘い声音に驚いている自分がいる。

はしたない事とわかっていても、拒めない自分がいる。







私はこの人を好きになったんだ。


と、

実感した。