霎介さんはただ黙々と私の前を歩く。
町はいつもの通り賑やかで、話し声に笑い声、売り子さんの高い声や威勢の良い売り込み文句が飛び交っている。
そんな中をしばらく歩くと霎介さんは突然ぴたりと立ち止まりこちらを向いた。
「播田君」
「は、はい」
「必要な物を買い揃えてくれたまえ。
僕は少し行きたい処があるのでね。
終わり次第此処で待っていよう」
「はぁ、わかりました」
財布を渡された私は少なくなっていた味噌やら何やらを買いに歩き出した。
振り返った時にはもう、霎介さんは往来を行き交う人々の中に消えていた。
「…あ、ごめんなさい。お待たせしちゃいましたか?」
片手に味噌の入った木桶と新鮮な大根と小株、もう片手に他のお野菜とお魚の入った麻袋を抱えて戻って来ると、霎介さんが目を真ん丸にして私を見ていた。
「いつもそんなに買って持って帰るのかい?」
「今日はお味噌も買いましたからいつもより品が多いですね」
「…重く、ないのかい?」
重い。
しかしそれが使用人の仕事なのだから文句など言う気はない。
「歩けますし、大丈夫ですよ」
少し歩いて振り返ると、霎介さんはさっきと同じ所に立ったままぼんやりとしている。
私が訝しげに見ていると霎介さんはつかつかと私の所まで来て味噌の入った桶を貸すように言って来た。



