藁半紙の原稿

曽根さんも交えた昼食の席はいつになく賑やかだった。


曽根さんはここの近所にある和菓子屋『風月堂』の跡継ぎだそうだ。
練習用のねりきりを霎介さんにこっそりあげているらしい。

貰ったねりきりは無骨ながら花の形になっていた。




「それにしても良いなぁ浅は、こんなに美人の女中さんに身の回りの世話をしてもらうなんて」

「あら、お上手」

「なんにせよ用心はするに越したこたぁない栞さん。
世の変わり種と言ったってこいつも男だ。
一つ屋根の下一組の男女二人きり…なんて何か起こらないなんてなかろうからね」

「まぁ」

「あまり相手にしてくれるな播田君。
軽口から生まれたような男なんだこいつは」




黙々とご飯を食べていた霎介さんはきっぱりとそう言うと曽根さんの猛反論を耳に入れずに「おかわり」、と私に茶碗を差し出した。




「曽根さんはよくここにいらっしゃるんですか?」

清太郎で良いよ、と一つ笑うと彼は頭をかく。


「腐れ縁だね。
こいつはこの通りあまり外には出ないし、積極的に交遊関係を持とうとはしないから人の出入りも此処は少ない」

確かに町外れのこの家には配達の人間もあまり来ない。

「知らぬうちに幼なじみが誰もおらん家で一人野垂れ死に腐っていたら後味悪いでしょう?」




…確かに。