「…何を?」
「さぁ、何をだろうな?」
先生は少し気まずそうに翼から目を逸らした。というか、何か緊張してる?
「朝陽、隠し事はもうやめてよ」
翼が先生の胸ぐらを弱々しく掴んで、震える声を吐き出した。
「避けられるの、辛かった。一緒にいるのに話せないの、辛かったよ。もう…あんなの嫌だ……」
涙を溢れさせる翼を見て、あたしは思わず駆け寄りそうになった。でもそれを、何も言わずに八木原君が制する。
黙って見てろってことだよね。
「翼、顔上げてみ?」
敬語を使う時でも、誰かを叱る時でも、本性を現した時でもない、優しい優しい声。
促されて顔を上げた翼の目が見開かれる。
「お前といると余裕なくなるから。傍にいればすぐバレちまうんじゃないかと思って、避けてた」
キラキラ。先生が握っているそれよりも、翼の顔は輝いていた。そしてまた涙を流す。