「優奈?」
翔が不思議そうに見つめる先で
優奈の視線が前に向けられ…
その表情が少しだけ引きつったような笑顔を浮かべる。
翔が優奈から視線を移すと…
「おかえり、翔、優奈ちゃん」
買い物カバンを片手に提げた翔の母親の姿があった。
「…ただいま」
「こんにちわ」
翔がぶすっとしながら、
優奈がにこやかに返事を返す。
「翔、これから買い物行って来るから。
鍵持ってるでしょ?」
「あぁ」
「じゃあ、優奈ちゃん」
翔の母親がそう言って笑顔を向けてから
2人とすれ違う。
翔達の家からスーパーがある商店街まで
徒歩で10分かからない。
だからこの近所の主婦は自転車や歩きで
商店街に行くのが毎日の日課で…
翔や優奈の母親も例外ではなかった。
その事を気にしてから
家の近所までくると
優奈は繋いでいた手を離す。
それが翔にとってはなんだか気に入らなかった。
「別にバレたっていいじゃん」
ふてくされたように言う翔を
優奈がキッと見上げる。
「ダメっ!
あたし小さい頃からおばさんに翔の事頼まれてるんだからっ
信頼されてるのにそのあたしが翔に手を出したなんてバレたら…
第一、親になんか知られたら翔だって気まずいでしょ?」
「別にー。
優奈とだったら誰に知られてもいい。
ってゆうかみんなに知らせたい」
ニコニコ笑いながら顔を近づける翔に
優奈がため息をつく。
家に近づくにつれて増えてきた近所の顔見知りに
手を繋ぐこともできなくて…
翔も空を見ながらため息をついた。
あのバレンタイン以降変わったのは
結局は名前の呼び方と誰にも見られないところでしか繋げない手…
グレイの曇り空が翔のため息を溶かしていく。
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