「優奈~、帰ろ~」


いつもと同じように掃除中の2年1組の教室に
翔のよく通る明るい声が響く。


「あ、うん。

ちょっと待って」


優奈が机の横にかけてあるカバンを持ち
美里と言葉を交わしてから

翔の待つ廊下に向かって歩いてくる。



「お待たせ」


優奈の言葉に翔が優しい笑顔で答える。


「行こっか」


翔が高校に入学してきた時から変わらない光景…


でもバレンタインから変わった事が2つ。



『優奈』

名前で呼ぶようになった事と…




ずっと幼なじみだった関係が

『恋人』

そう呼べる関係になった事…




引っ越してきて優奈に逢って…


それからはずっと優奈しか見てこなかった翔にとって

優奈が自分の気持ちに応えてくれた事は
これ以上ないくらいにうれしくて…



もどかしかった距離が…

触れられるのに拒否されるのが恐くて握り締めていた手が…


校門を出たところで繋がる。



付き合ってるのに学校で手を繋ぐことを恥ずかしがる優奈に

翔が渋々頷いて校門を出てから繋ぐ事で話がついた。



冷え性なのか、優奈の手はいつも冷たくて

それが繋いでいるうちに自分の体温と溶け合っていくのがうれしかった。



いつのまにか自分の方が大きくなった手が

優奈の手を包み込んでいるのを見るとどうしょうもなく優奈が愛しくなってきて…




「…なに?

見てない?」


じっと見つめていた翔に

優奈が少し気まずそうに口を開いた。



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