「はぁ?」


帰りのホームルームが終わった教室に翔の声が響く。


「…なんだよ」


前の席の上条が明らかに迷惑そうに振り向く。


翔の手にはケータイが握られていて…

翔の視線はケータイの画面で固まっていた。




「…『今日は用事があるから1人で帰ってね』

…だって」


覗き込んだ上条が机にうなだれた翔に言う。



「…なんで?

昨日の事やっぱ怒ってんの?」


「…さぁ。

怒ってんじゃね?(笑)」


いつもの明るさを失った翔に
上条がからかうように口を開く。



翔が入学して1年近く。


たまに別々に帰る事ももちろんあった。


どっちかに用事があったり委員会があったり…




だけど…


昨日の事があるだけになんだか今日のドタキャンは何かを意味しているように思えて…




なかなか机から起き上がれなかった。






「だって言えねぇじゃん…」




優奈にあげる指輪の事を話してたなんて…





言えるわけねぇじゃん…




オレだって男なんだよ。


優奈の喜ぶ顔が見たいし、

驚かせたい。




いつまで経っても優奈の後ろばかりを追いかけてた子供じゃないから。


ちゃんと隣を歩きたい。




なのに…





翔の歪んだ口からため息が落ちる。



からまわりしている自分が情けなくて…





いつまでも優奈に追いつけない気がして…






たった1歳が…



限りなく遠い気がした。






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