「んー、元気ないね。何処か具合でも悪いのかな」
水の入った器を持ってきた仙太郎がしゃがんでおれ達を見下ろす。
おれや頼子がどんなに息子の名前を呼んでも、相手には「にゃあ」しか伝わらないようだ。
「困ったなぁ」しきりに頬を掻いていた。
そっと器を置くと、おれ達の頭を交互に撫でて、「君達。どうしよう」仙太郎は肩を落として膝を抱える。
「何処から侵入したか分からないけど、お父さんとお母さんに見つかったら不味いよなぁ。二人とも動物嫌いだし、コホッコホ…ッ。
外に出す、しかないのかな。見たところ、体はおっきいから大人のねこだと思うけど。
毛並みとか綺麗だし…、飼いねこかな? 首輪はないけど」
外に出す。
その発言に思わずおれ達は顔を見合わせた。
次いで、窓辺に目を向ける。
カーテンが開かれている向こうに見えるのは、木枯らしの吹いた閑寂な庭。
あんなところに放り出されたら寒い寒くないのなんのって、凍え死んでしまう!
野良ねこは逞しく生きるであろう世界も、今のおれ達が生き延びられるとは思えない。
揃って「にゃあ」「にゃあ」と鳴けば、仙太郎が困ったように笑って窓辺に視線を投げる。
「寒そうだよね、外」
朝だとはいえ出すのは可哀想だと咳をしながら思案していた。



