あちらこちらに目を配っていると、「あそこ!」頼子が指差した。
そこには横断歩道前で信号と睨めっこしている仙太郎の姿。
青になると表情を崩して、足を向こう側に伸ばした。
ま、不味い!
「仙太郎―――ッ!」
頼子の叫び声と共に、「え?」息子が立ち止まって振り返って来る。
そして視界に映った忌まわしき信号無視のバイクの姿。
―――…おれはもう一度、お前に“お父さん”と呼ばれたい。
おれは一目散に駆けて、驚き返っている息子の腕を掴むと体を腕に抱えて勢いのまま転がった。
微かにバイクがおれの足を擦った気がするけれど、向こうのバイクがガードレールにぶつかっていたような気もするけれど、今はなによりも仙太郎だった。
腕の中で目を白黒させている息子を座らせると、「怪我はないか?!」痛いところは、血は出ていないか、としきりに声を掛ける。
瞬きしている仙太郎は、コホンと咳を零し、うんっと頷いた。
何処も痛くないよ、ヘーキだよ、ダイジョーブだよ。
「ぼく、なんともないよ。お父さん」
嗚呼っ。
おれは涙腺が緩んだ。
“お父さん”と呼ばれることがこんなにも喜ばしいことだなんて知りもしなかった。
当たり前に呼ばれていた名前にこんなにも価値があったなんて。
言葉に切迫していた感情が切れて、ドッと波のように襲ってきた。
良かった。
良かった。
良かった。
本当によかった、まにあったんだ。



