嗚呼、どうしておれは仕事、仕事、しごと…、と自分のことばかり。
もっと頼子や仙太郎の気持ちに目を向けてやれば良かった。
家のことを頼子一人に任せようとした自分も愚かだし、仙太郎の幼い気遣いにすら気付けないおれは親失格だ。
仕事で自分の評価、会社の糧になれたとしても…、おれはおれを迎えてくれる家族のことを考えていなかった。
『頼子。悪かったな』
おれは、白ねこに先日の喧嘩と自分のエゴについて謝罪する。
『いいえ』
わたしも一緒よ、尾と耳を垂らす頼子は自分の気持ちばかり主張していたとおれに詫びてくる。
お互いに駄目な夫婦らしい。
そして一番偉いのは、誰よりもおれ達のことを気遣ってくれていた仙太郎。
『元に戻ったら…、あいつの好きなことに付き合ってやろうな』
『ええ、約束も守れなかったし…、お詫びにいっぱい…』
「シロ、クロ、何してるの? 早く早く」
顔を上げれば、横断歩道手前で仙太郎がおいでおいでと手馴れた手つきで手招きしてくる。
「ラブラブしてるの?」
茶化してくる九つの息子におれ達は微苦笑を零した。
本当に仙太郎はしっかりした子で、人を思いやることのできる優しい子だよ。
息子の下に駆け寄ってやると、嬉しそうに仙太郎はしゃがんでおれと頼子の頭をよしよし。
「いい子だね」と褒めてくれる。
お前ほどじゃないと思った。



