やがて老人の歩みが止まった。
どうやらおれ達はさっきの駅前に戻ってきたらしい。
仙太郎の手を放した老人は、ひとりで何処かに歩き出す。
追わなければいけないだろうに、仙太郎はちょっと物思いに耽ったような顔を作って近くの噴水の縁に腰を下ろしてしまった。
さっきの場面の数々を見て、自分なりに思うことがあるみたいだ。
おれと頼子はそっと息子の両脇に腰を下ろす。
にゃあ、一声鳴くと両手で力なく頭を撫でてきた。
ケホコホ。
咳をし始める仙太郎は暫く無言のままおれ達の頭を撫でていたけれど、ようやく重い口を開いた。
「今のお父さんとお母さん」
シアワセそうじゃないね、と。
昔のお父さんとお母さんはあんなにシアワセそうだったのに、今のお父さんとお母さん、シアワセそうじゃなさそう。
仕事ではあんなにシアワセそうなのに、一緒にいると喧嘩ばかりだったね。
ポツポツと零す仙太郎は、「ぼくのせいなんだ」声音を震わせた。
「お父さんとお母さん、喧嘩してばっかりなの…、ぼくのせいなんだ。ぼくって喘息持ちだから、すぐ病院に行ったりして。お薬とかもらったりして」



