「此処はお父さんとお母さんのベッドなんだよ。ただでさえ家は動物を飼っちゃいけないのに…、お前、何処から入って来たの?」
それにお前も…、息子が視線を下げる。
つられて視線を落とすおれは、彼の先にある物を見る前に硬直してしまった。
おれの足が足じゃない。
足がそこにないのだ。
言い方に語弊があるかもしれないが、おれの足がない。
そう“おれの足がない”。
言い方を飼えれば、他の足はあるのだ。
黒い毛に覆われた右足におれは思わず自分の足だろうか、とそれを動かしてみる。
脳から送られた命令信号は神経を伝い、おれの右足を見事に動かす。
冗談だろ、嘘だろ、夢か?
絶句しているおれだったけれど、息を吹き返して息子の名を紡いだ。
にゃあ、獣の声音しか出なくて目の前が真っ暗になりそうだった。
何度息子の名前、仙太郎(せんたろう)の名前を呼ぼうとしても「にゃあ、にゃあ、にゃあ!」まるで興奮したねこのような声しか出ない。
ねこのような、ではなく、もしかしてもしかすると。



