仙太郎の発作が落ち着くまで暫し時間を要した。 
 
人間であれば背中を擦ってやるところなのに、いまのおれと頼子はねこ。

だから擦ってやるなんて大芸道ができるわけもなく、傍でにゃあにゃあと鳴き、寄り添うことしかできなかった。


呼吸が苦しそうだというのに、仙太郎は何処となく笑みを返しておれ達の頭を撫でてくれる。


まるで心配を慰めてくれている親のよう。これじゃあ立場が逆だ。
 

小さな背を丸めてゴホンと咳き込んでいる仙太郎は、ふーっと二酸化炭素を吐き出してごろんとソファーに寝転がる。


「治らないかなぁ。喘息」


ぽつりと零す息子は、おれ達を引き寄せて腕に閉じ込めてくる。

おとなしく腕におさまると、仙太郎は嬉しそうに頬を崩した。



「クロもシロもあったかいね。おとなしいし、いい子。お父さんとお母さん、飼っていいって言わないかな」



ずーっとクロとシロがいてくれたら、毎日が寂しくなさそう。
 
初めて聞く息子の本音におれ達は弱々しく鳴くことしかできなかった。

共働きをしているせいか、息子を留守番にさせがちだ。

昔からそう、息子を家に残しておれも頼子も外で働いている。


それが当たり前になっているものだから、息子の心情なんて知る由もなかった。


仙太郎も文句一つ零さず、おれ達を見送ってくれていたし。
 

―――…そうか、お前、心の奥底では寂しかったんだな。