「…何すんの?」
口を隠しながら驚いた顔をして言う美鈴に
トモがにやっと笑って首を傾げる。
「何って…キスだけど?
契約成立のキス」
悪びれもしないトモに
美鈴が言葉を失って…
目を逸らす。
目を逸らしても闇しかない空間は
何も見つめるものもなく…
トモの小さな動きにも目が反応してしまう。
トモが首の後ろをかきながら
口を開いた。
「…3回キスしたらおまえを死の世界に案内してやるよ」
トモの言葉に
美鈴が視線をトモに戻す。
そんな美鈴に気付いたトモが
少し笑顔を作って美鈴を見つめる。
「今のが1回目。
3回目のキスでおまえをちゃんと逝かせてやるから
それまで楽しめよな」
「…なんでキス?」
「だからキスくらいしとかねぇと
バカにされるって言ってんだろ?
あっちで少しでも浮かないように
オレなりの気づかい。思いやり。
…初仕事くらいきちんとやんねぇと
怒られるしな。
…それにもう死んだも同然なんだから
キスくらいどうって事ねぇだろ(笑)」
「……」
言われてみると確かにそのとおりで…
死んだんだから…
そう言われたら何も拒否できない気がした。
「行くぞ」
トモが美鈴の手をとって歩き出す。
トモの暗闇に溶け込みそうな真っ黒な背中を見ながら…
美鈴が唇を指でなぞる。
トモの暖かい唇の感触が…
まだ残っていた。
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