「…だってほっとけねぇだろ。
もう死ぬっていうのに思い残した事も何もないなんて言う女…
それに言ったろ?
記念すべきオレの初仕事だからな。
きちんと送ってやりたいんだ」
トモの目はどこまでも青い空を真っ直ぐに見つめていて…
少しでも目を離せばこのまま空に飛んでいってしまいそうだった。
あの高さから軽いノリで飛び降りたトモにとっては
空の上まで行くことなんてきっと簡単で…
トモがまたあの暗闇だけの空間に行ってしまう事を思うと
なんだか名前の付けにくい感情が美鈴の胸を襲ってきた。
「…スズ?」
急に腕にしがみついてきた美鈴に
トモが驚いた表情を向ける。
「……」
自分でも信じられない行動に
美鈴の胸がドキドキ騒ぎ出す。
だけど…
それでも離したくなかった。
なんでだかはわからないけど…
トモが寂しそうに見えて…
トモを1人であの空間に行かせたくなかった。
この腕を離したくなかった。
一緒に…
いたかった。
「…好きなだけそうしてろよ」
低い声が優しく響く。
トモの手が
美鈴の長い髪を撫でる。
優しい手つきに…
胸がきゅうっと苦しくなった。
なるべく強く思ってしまわないように
こんな気持ちがトモに伝わらないように
美鈴が目の前で売られている風船に目を移す。
カラフルな風船がふわふわと揺れるのを眺める。
騒がしい遊園地の中で…
このベンチだけ時間が止まったみたいだった。
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