「ねぇ…」
バイキングの船が動き出した時、
美鈴が口を開いた。
混んでいるのに
見えていないはずなのに
トモと美鈴が座った周りには誰も座ろうとしない。
しかもそれを誰も不思議には思っていないようだった。
疑問には思ったが、さっき歩いている人達が
自分達を避けて通ったのと一緒なんだろうと
自分の中で納得していた。
親の事をあまり考えなくなってからは
物事を深く追求しない癖ができた。
深入りしていい事なんか1つもないから…
だから寂しさを胸に隠しながらも
いつでも元気なふりをしていた。
1人で生きていくしかない事が分かってからは
弱音を吐くわけにもいかなかったから。
「ん?」
「あたしの全部が見えるって言ってたでしょ?
それって今考えてることとかも見えるの?」
だんだんと大きく振られていく船が風を切る。
見つめたトモの髪もその風で流れていた。
「ん~…考えてる事までは見えないな。
強く想ってる事なら見えるけど」
「ふぅん」
トモの答えに少しだけ安心した。
本当に全部が見えてしまっていては
思想の自由もなんにもない。
…死んでしまうのに人権を主張するのもおかしな話だが。
「それに今日はなるべく見ないように気をつけてやるから。
だから思いっきり楽しめよな」
そう言って笑ったトモの髪を風が流していく。
長い髪に隠されていた瞳はやっぱりきれいで…
美鈴が微笑みながら頷いた。
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