「スズ、何乗りたい?」


『スズ』


そう呼ばれる事にはまだ少し抵抗を感じながら
美鈴が周りとぐるっと見渡す。



「別に…

トモの好きでいいよ」


「なんでだよ(笑)

スズを楽しませるために来たんだからわがまま言えよ。


…ずっとわがままなんか言えずにきたんだろ?」



トモの言葉にはっとしてトモを振り返った美鈴だったが…



『全部見える』


トモの言葉を思い出して納得したようにため息をついた。



自分の全部を知られているのは
少し…だいぶ居心地が悪い。



「…でもいきなりそんな事言われたって
急にわがままなんか言えないよ」


美鈴が見上げるようにトモを見つめて言うと
トモが少し困ったような表情をして腕を組む。


2人がこうしている間も
人の波がどんどん通り過ぎていって…


自分達を避けて通るような人混みを
美鈴が不思議そうな表情で眺める。



「それもそうか。

じゃあとりあえず回ろうぜ。


で、やりたいこととか欲しいモノとかあったらすぐ言う事。


それでいい?」


少し首を傾げながら言うトモの顔を長い髪が流れる。


キレイな黒髪が太陽の光で少し透けていた。



「…うん」


こくんと頷いた美鈴を確認すると
トモがにっと笑って美鈴の手を握る。



「オレの事はさっきみたいに『トモ』って呼べよな。

彼氏なんだから」


わざとドキドキさせようとしてるとしか思えないほどの至近距離でそう言われて…

美鈴が赤くなった顔を俯かせて困ったように表情を歪める。



そんな美鈴を見て

トモがふっと笑って…






「おまえ可愛いのにな。

なんで彼氏できなかったんだろうな」






また


美鈴の胸を締め付けるような言葉を落とした。







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