(今はそないな悠長なこと話しとる場合やないやろが、沖田はん)


謝ってほしいわけではない。
そんな時間すら惜しいからだ。


屯所に急ごうとしていた沖田の背中に、山崎は声を投げかけた。


「沖田はん……お願いがあるんやけど」


「え」出鼻を挫かれた沖田は、首を傾げて山崎を振り返った。「どうしたんですか?」


「沖田はんだけ先に行っとって下さい。俺はあいつを止めに行きますわ。頭に血ィ昇っとる奴が冷静に様子見なんて出来るはずがない。


――あいつは、間違っとる……」


先程は光の暗く感情が無い目に、思わず足が竦んでしまったが、刀が無くとも山崎にだって出来ることがあるはずだ。


動揺したといっても、何も流されてしまう必要は無い。光が間違っているならば、兄弟子の山崎がただ全力で止めるのみだ。


そう思って沖田を見れば、彼は疑問に見開いて瞬かせていた目を戻して、深く頷いてくれた。


湿気を多く含んだ熱い風が、まるで道を分かつかのように、裏路地に行く俺と屯所に向かう沖田の間に強く吹き抜けた。