一刻も早くこの場所を立ち去りたい上条が
面倒くさげに振り返る。
「明日の分、特別にあげましょうか」
店員のそこ言葉に…
上条が少しびっくりしたように口を開く。
「…そんな事できるんですか?」
「ううん、普通はできないんだけど…
1日の分は決まってるから。
だけど…」
店員がじろじろと上条の顔を見てきて
上条が顔をしかめた。
怪訝そうに顔を歪める上条を見て
店員がにっこり笑い…
「キミ、かっこいいから特別。
あげるからさ…
コレ配ってきて?」
そう言って差し出された店員の手に握られていたのは…
「…なんすか?」
「このお店できたばっかで客寄せがまだいまいちできてないの。
だから駅前でこのティッシュ配ってきてくれない?
キミかっこいいから女の子の食いつきいいだろうし」
「……」
黙ったままの上条の目に
店員の名札が目にとまる。
『宮川』
そう書かれた隣に
『店長』
役職が書かれていた。
バイトのくせに好き勝手言ってると思っていた上条が
宮川の態度に納得したように小さく息を吐く。
明日のホワイトデーに日奈に渡すには今日しか買うチャンスはない。
…それを分かっていてもティッシュを配る気にも到底なれない。
店に入る時と同じように
また2つの選択肢がぐるぐる回って…
「…配ってきます」
日奈が勝った。
…つぅか、日奈に勝てるもんなんかあるわけねぇし。
学ランに身を包んだままティッシュの入った紙袋を持って駅前に向かって歩き出す。
少し暖かくなったと言っても
吹き付ける風はまだ冷たかった。
.



