前ぶれなく、ソレは浮かび上がってきた。
揺らめく水面、底からあがってきたか、薄い闇が三つ。
泥人形に目と口だけを与えたような、形が崩れた顔。
“輪郭がない顔”がにんまりとこちらを見ていた。
そこから好美は自分が何をしたか分からない。
意識より前に自己防衛本能が働いたか、好美は浴室をあとにし、廊下でぐずぐす泣いていた。
「どうかしましたかっ」
「わ、わた……っ!」
タイミング良く来た渉。実を言えば、好美は浴室から廊下まで悲鳴をあげ続けていたため、渉が来たのは当たり前だった。
さすがにいきなり女の子の鬼気迫る悲鳴が聞こえれば、渉も慌てて来たらしい。


