…どのくらいそうしてたんだろう。
心臓がうるさくて、
頭の中がぐちゃぐちゃで、
抱きしめられてから1分たったのかもっとたったのか、
それとも数秒だけしかたっていないのかすらわからない。
ただ確かにわかっているのは、
この人が好きだということだった。
「…ごめん」
え?
そう言ってタクさんはあたしを離した。
「ホント、ごめん。びっくりしたよな、ごめん」
『ごめん』と繰り返すタクさん。
突然のことだらけで混乱する頭の中でも、
浮かんだのはたくさんの「どうして」だった。
それは何のごめんなの?
あたしに彼氏がいるから?
好きじゃないのに抱きしめたから?
タクさん、暗くて顔が見えないよ。
何にも言えないあたしの頭をぽん、と撫でてタクさんは言った。
「ホント、びっくりさせちゃったな。俺も自分でびっくりだ。でも美生ちゃん泣いてるみたいに見えたから、思わず身体が動いちゃって」
はははとぎこちなく笑うタクさん。
「まぁ勘違いだったみたいだな。でも何かあったら相談しろな?」
そうしてタクさんは、薬飲めよと言って帰ってしまった。
フリーズしたあたしは、
ドアがぱたんと閉まった瞬間、座り込んで呆然とした。
わかんないよタクさん。
何考えてるの?
あたしのこと、どう思ってるの?
そこまで考えて、
あたしはぶんぶんと頭を振った。
そんなこと、考えちゃいけない……



