きみとぼくの、失われた時間



「そんなに怒るなって。ちょーっと学校が恋しくて侵入しただけなんだからさ」


ありきたりの台詞を吐いてみるけど、彼女にはまったく通じない。

痛い拳骨を俺に食らわして、「馬鹿!」盛大に罵ってくる。


アイテテっ、拳骨もまだ食らえるわけか。

目から星が出るほど痛いって。


「坂本、あんたって奴はどうしてそう馬鹿なのっ。自分が何してるか分かってる?」

「制服着て来たから、全然疑われなかったって。準備はいいんだ、俺」

「名札がおかしいのよっ。今の3年は4クラスしかないの! あんたの名札、7組って書いてあるでしょ? 違和感バリバリよ」


そーんなこと言ってもなぁ、頭の後ろで腕を組む俺は侵入できたし、と悪戯っぽく笑う。

まったく反省の色が無い俺に地団太を踏む秋本は、車のキーを取ってくるから車に居てとご命令。

遠回し、一緒に帰ろうと言ってくれている。

俺は申し訳ない気持ちになりつつ、「そうだ。教室に行ってみよう」思い立ったと明るく手を叩く。


これまた秋本が素っ頓狂な声を出すけど、構わず教室に行きたいと俺は階段に向かって駆けた。

「ちょ」馬鹿な事言わないでよ、追い駆けてくる秋本にへへっと笑って俺は階段を上り始める。

「見つかったらどうするの」

後から階段を上ってくる彼女に、

「秋本先生がいるから大丈夫」

踊り場でおどけて見せた。

勝手だと非難しつつも俺を追い駆けてくれるのは、持ち前の優しさ、お節介心からだろうな。


軽快な足取りで階段を上った俺は、自分の教室があった場所まで走る。

で、3年7組があった教室前で立ち止まった俺は拍子抜け。


「資料室になってる」
 

残念だと肩を落とす。

追いついた秋本が気は済んだか、と声を掛けてきた。
気が済んだなら早く行こう、見つかったら本当にやばいから。

彼女の助言を受け流し、「ツマンネェ」脹れる俺は、また閃いたと頭上に豆電球を点す。


その表情に嫌な予感しかしないのか、秋本がすかさず駄目だと促してくるけど知ったこっちゃない。


「秋本。今、3年2組の担当なんだろ? 島津達が言ってたぞ。2組の教室に行こう」

「はぁあ…、鍵掛かってるから入れないわよ」